環境問題の根本的な原因のひとつは、自然からもたらされる資源に限りがあるという視点が欠けていることにある。これまでの経済学も、どのように効率よく資源を配分し、どのように公平に富を分配するかを中心に学問が組み立てられ、限りある資源中での「効率」と「公平」という視点、つまり「経済最適規模」を考えてこなかった。
残念ながら、未だに従来の経済学の枠から出ることができず、拡大経済による技術革新と市場価格調整機能こそが環境問題を解決する方法だと信じて疑わない人々がいる。このような状況をエコロジー経済学者ハーマン・デイリー教授は、こう例えている。
『荷物を積み込み過ぎた船が、その重みで沈みかけている。乗務員は、不均等に積まれた荷物を必死に「効率かつ均等」に並び変えているが、うまく並び直したからといって重量超過の船が沈むことにかわりない。いわば最適に船が沈むだけことだ。』
地球1個分の暮らしを行うために、私達の活動がどれだけ環境に負荷を与えているか、そして環境から生み出される資源の規模はどれだけあるか、両者の関係を正しく理解し、適切なバランスを取り戻していかなければならない。そのために、環境に対する負荷量を計量的に計測する指標が必要となる。その指標の1つがエコロジカル・フットプリントである。
エコロジカル・フットプリント
(出所: グローバル・フットプリント・ネットワーク)
エコロジカル・フットプリントは、1990年代初期にカナダのブリティッシュコロンビア大学ウィリアム・リース教授とマティス・ワケナゲル博士によって開発された。
例えば、私たちが生きていくために、米・野菜・肉・乳製品を食べているが、それらを生産するために耕作地や牧草地が必要になる。さらに椅子や机など木材製品を生産するために森林地が必要だ。
このように、私たち生活を支えるために必要となるすべての土地・水域面積を計算し、まとめたものがエコロジカル・フットプリントである。この数値が高ければ高いほど、消費を支えるために広大な面積を必要としていることになり「環境負荷が高い」ということになる。
図1は、エコロジカル・フットプリント分析範囲をイメージ化したものだ。これからわかるようにエコロジカル・フットプリントでは6つの土地・水域面積に整理し計測を行う。つまり、私たちの普段の生活ためにどれだけの土地を踏みつけているか、エコロジカル・フットプリントの名前の由来はここからきている。
バイオキャパシティ
(出所:『エコロジカル・フットプリント・レポート日本2009』)
エコロジカル・フットプリントが、生態系に対する人類の需要量を表しているに対して、バイオキャパシティは再生可能な資源を生み出す「地球上(あるい地域内に)存在する生産可能な土地・水域面積」を示す。つまりを供給サイドから表したもである。
図2は、地球の供給可能なバイオキャパシティを土地面積の割合で表している。驚くべきことに、地球表面で高い生物生産力を有する土地・水域面積は、陸地が18%、海域が4%たった22%程度に過ぎず、その他は生物生産力低い海域と、砂漠・氷床・不毛地等によって占められている。
つまり私たち生活を支えている「再生可能な資源」の大部分は、地球表面積たった22%に依存していることになる。この地球のバイオキャパシティは、もちろん人間だけもでない。他の生き物と共有していかなければならない。
地球は1個しかない
ここで、大切なキーワードがある。それはエコロジカル・フットプリント分析が「再生可能な資源」と「土地」に焦点を当てた指標だという点だ。
自然からもたらされる資源は、再生することが可能なものと不可能なものに分けることができる。鉄や石油などに代表される「再生不可能な資源」は経済活動に直結しているため、資源枯渇問題を比較的認識しやすいが、実は「再生可能な資源」ことが、人類生存にとって最も大切だということは意外にも認識されていない。
例えば、日本全体を巨大なガラス半球で閉じ込めたとしよう。頼るは日本の生態系のみである。そのような状態で、もし日本のバイオキャパシティが森林伐採、海岸汚染等で大幅に減少しているとすれば、「どのように現在の経済活動を拡大していくか」という問いかけなどするであろうか。限られた資源の中で、農作物や漁業などの「再生可能な資源」のフローが止まることは、日本人の生存問題に直結する。ここが「再生不可能な資源」が主に生活水準や利便性の問題であることと根本的に違う点である。
このガラス半球のイメージを地球レベルまで高めてほしい。「人間にとって依存できる土地は今ところ地球一個のみであり、地球一個分の有限な土地を公平に分かちあい、持続可能な経済を構築するという努力の一端を担っている」ことの大切さを、理解して頂けると思う。
これがエコロジカル・フットプリント開発の原点である。
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同記事は、6月1日に琉球新報(沖縄)に記載された記事「持続可能な地球〜エコロジカル・フットプリント(1)」をブログ用に加筆・校正したものです。
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