ついにこの日がやってきました!
2012年度の「ブループラネット賞」に、エコロジカル・フットプリント分析の開発者、ウィリアム・E・リース教授とマーティス・ワケナゲル博士の両氏が選ばれました。「エコロジカル・フットプリント」を通して、われわれ人類がどれだけ自然環境に付加を与えているかを視覚化し、過剰消費のリスクを明らかにしたことが、今回の受賞につながりました。「ブループラネット賞」は、”環境界のノーベル賞’ともいわれています。
今回の受賞を機に、エコロジカル・フットプリント分析の認知度がさらに高まり、多くの国の政府がエコロジカル・フットプリント分析を自国の
環境政策に積極的に活用することを期待します。
以下は「公益財団法人旭硝子財団」のプレスリリースより
(ブログ用に若干編集致しました)
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ウィリアム・E・リース教授およびマティス・ワケナゲル博士
(Professor William E. Rees and Dr. Mathis Wackernagel)
リース教授とワケナゲル博士は、生物物理学的生産性(バイオフィジカルキャパシティ)に対する人間の需要と生態系の再生能力を比較するための資源会計の枠組みである
エコロジカルフットプリントの概念を共同で開発した。2人は1990年代に、リース教授が共同議長を務めた、ブリティッシュ・コロンビア大学「健康で持続可能な地域社会の実現に向けたタスクフォース」に参加。その一環として、初めてその手法を広範な地域に適用した。(ワケナゲル博士は本研究プログラムを自身の博士論文の事例研究としている。)
リース教授は、同大学でのキャリアのほとんどを一貫してエコロジカルフットプリント概念を改良し応用する事で持続可能性の分析を行ってきた。多くの大学院生は、彼の指導のもと、マテリアルフロー分析とエコロジカルフットプリント概念を利用して野菜のビニールハウス生産からサケの網生簀養殖や航空輸送、国際貿易に至るまで、都市、国家、個人のさまざまな経済活動がもたらす影響を評価し、研究者として素晴らしい業績を収めている。彼のもとでは現在も引き続き学生たちが都市の持続可能性・脆弱性とグローバリゼーションがもたらす生物物理学的な悪影響の研究分野においてエコロジカルフットプリント概念の応用と改良に取り組んでいる。
リース教授は、エコロジカルフットプリントの概念、環境の人口収容力、およびそれらに関連するテーマについて、単独あるいは共同で数多くの学術論文や高い評価を得た論説を発表し、書籍の分担執筆も行っている。これまで世界30カ国から招待を受け、自身の専門分野に関する講演を行っている。教授は1994年から1999年までコミュニティー地域計画学部長(Director of the School of Community and Regional Planning)を務め、同学部の教育方針とカリキュラムを「持続可能性に向けた計画」に沿ったものへと改めた。教授はまた、2003年のグローバル・フットプリント・ネットワーク創設以来、その政策・科学顧問として、フットプリントを生物圏に対する人間の需要を測るためのより確かな尺度とすべく、世界的な取り組みを進めている同団体を積極的にサポートしている。
ワケナゲル博士は、1994年にリース教授の指導のもとエコロジカルフットプリントを開発し博士研究を終了した。その後コスタリカにてモーリス・ストロング氏(1995年度ブループラネット賞受賞者)が設立したアース・カウンシルに勤務し、程なくしてハラパ(メキシコ)のアナワク大学に持続可能性に関する研究センターを創設。同センターにてエコロジカルフットプリントに関するさらなる研究を重ね、1997年には初めて国連のデータに基づいて52カ国のフットプリントとバイオキャパシティについて一貫した計算を行った。リオデジャネイロで開催されたリオ+5会議では、彼の研究が大いに注目を集めた。
博士は、1999年から2003年までカリフォルニアの経済シンクタンク、リディファイニング・プログレスプログラムで持続可能性担当ディレクターを務め、この経験から、エコロジカルフットプリント分析の認知度向上と生態学的限界を意思決定の中核となすことを目標に、
2003年にスーザン・バーンズと共同でグローバル・フットプリント・ネットワークを創設。同ネットワークはすぐに大規模な非政府組織へと発展し、カリフォルニアの本部に加え、ブリュッセル(ベルギー)とジュネーブ(スイス)にも事務所を開設した。2012年には、
世界のNGOトップ100に選ばれている。
博士は過去10年にわたり、年2回発行のWFFの機関誌『The Living Planet Report』(生きている地球レポート)に寄稿しており、これがエコロジカルフットプリントの成果を報告する主な媒体となっている。2012年版は5月に国際宇宙ステーションから発表され、メディアからはこれまでで最も大きな反響が寄せられている。グローバル・フットプリント・ネットワークの最新の計算によれば、生物資源に対する人間の需要は、長期的な地球の再生能力を50%以上上回っている。
エコロジカルフットプリント会計によって、人間の自然財に対する需要量と利用可能な生態系の財・サービスの供給量(バイオキャパシティ)を体系的に比較することが初めて可能になった。この手法は、人口の多少を問わず、地域、国、地球規模で応用が可能である。エコロジカルフットプリント分析法では、需要と供給の両方について、世界の平均生産力をヘクタールで測定する。つまり、ある母集団の
エコロジカルフットプリントとは、その集団が消費する生物資源を生産しその集団が排出する廃棄物を既存の技術を使用して吸収するのに継続的に必要とする生産可能な土地と水の生態系を面積で表したものである。重要な廃棄物フローとして挙げられるのは、化石燃料の燃焼によって発生する二酸化炭素である。
バイオキャパシティは、世界またはある地域に存在する生産的な生態系を面積で表したものである。
エコロジカルフットプリントと環境収容力は、反比例の関係にある。従来の環境収容力が「物質面で所定の生活水準を維持した条件で一定の土地はどのくらいの人口を支えることができるか」を問うものであるのに対し、エコロジカルフットプリントでは「当該土地および水生態系が地球上のどこに位置するかに関わらず、この人口を支えるのにはどのくらいの面積(バイオキャパシティ)が必要か」を求める。このアプローチでは、輸出入両方の流れが明らかになり、分析対象となる時代の技術的な進化も反映される。先に述べた通り、エコロジカルフットプリント分析によれば、特定の人口(あるいは全人類)による生物資源の一般的な消費水準がそれを支える生態系の長期的な生産力を超過しているか否かを科学的に判断することが可能になる。すなわち、ある国の人口が国内の領土および自由に利用することのできるその他の生態系の環境収容力の範囲を超えていないかどうかを明らかにすることができるのである。
エコロジカルフットプリント分析が世界の開発に与える影響はあまりにも大きいため、世界各国のさまざまな学術誌や学会が長年にわたってその一般的な概念と具体的な特性を議論および論争の対象として取り上げてきた。例えば、国際生態経済学会の公式機関誌である
『Ecological Economics』(生態経済学)は、エコロジカルフットプリントに関する論文や書評を頻繁に掲載し、少なくとも2度にわたってその概念に関する討議特集を組んでいる。フランスのサルコジ大統領のもとで
経済学者のスティグリッツ、セン、フィトゥシによって組織された委員会も、その報告書で15ページをエコロジカルフットプリントに関する議論と評価に割いている。
エコロジカルフットプリントの影響は、もちろん学問の世界だけにとどまっているわけではない。エコロジカルフットプリントは環境に対する人間の需要をその消費に対応する土地と水の二次元の面積で示すため、一般の人々が理解しやすい。これが、世界中でさまざまな規模で行われる数多くの研究プロジェクトにおいてエコロジカルフットプリントの活用が進んでいる理由である。特に、概念が単純であるために、限りある惑星において増加の一途をたどる物的消費を支えることは不可能であるという
事実に対する理解を高めることにつながっている。徐々に、政府、国際機関、開発に関心のあるNGOは、物的成長には生物物理学上の限界があるのではないかという考え方を受け入れ始めている。それは、所得が最低水準にある地域社会から最富裕層まで、誰もが、過剰消費がもたらす重大な影響を免れることはできないからである。
その結果、エコジカルフットプリントは
環境教育のツールとして特別な役割を担うようになった。一般向けのテキストや高等学校の教科書の多くがこの手法を扱った章を設け、解説を行っている。また、学生や一般人も個人向けのエコロジカルフットプリント計算機をオンラインで利用することができ(もともとはアースデイネットワークのために制作)、毎年100万人以上がアクセスしている。
一般の人々に比べれば遅れてはいるものの、政府機関もようやくエコロジカルフットプリント分析について真剣に考え始めている。先に述べた通り、多くの国がエコロジカルフットプリントの概念を考察すべく調査を行っており、
アラブ首長国連邦、エクアドル、スイス、日本、インドネシア、ラトビアの少なくとも7カ国が政策の一部としてエコロジカルフットプリント評価を実施している。
開発(人間の福祉)と持続可能性(開発が1つの惑星に収まる範囲で行われているか)を追跡すれば、世界規模の持続可能な開発を評価することが可能である。この2つは、人間による開発の指標であるUNDPの人間開発指数(HDI)と生物圏に対する人間の需要を示す尺度であるエコロジカルフットプリントで測定することができる。エコロジカルフットプリントが世界全体で1人当たり1.8ヘクタール未満であれば、その資源に対する需要は世界的に反復が可能である。持続可能な開発を政策目標として明確に位置づける国は増えているにもかかわらず、2つの最低要件を両方満たしている国はほとんどない。バイオキャパシティは国によって異なり、この分析法は国ごとに適用できる。また、世界全体で見ても持続可能な開発の枠を超えていることに注意が必要である。
日本政府でもエコロジカルフットプリントに対する意識は確実に高まっている(ワケナゲル博士の同僚であり、リース教授のもとで博士号を取得した
和田喜彦博士が国内外でエコロジカルフットプリントの概念を積極的に推進している)。
WWFジャパンは、エコロジカルフットプリントについて優れた報告書を発表して折り、また
エコロジカル・フットプリント・ジャパンという団体も存在する。
環境省は、1996年、1999年、2001年、2002年版の環境白書(総括編)でエコロジカルフットプリントに関する研究成果と政策合意を発表しており、2000年9月からは貿易自由化と環境影響評価の手順を話し合う環境省主催の会議にもエコロジカルフットプリントの専門家が参加している。
東京都環境白書もエコロジカルフットプリント分析について言及している。
ECの「Beyond GDP」イニシアチブでもエコロジカルフットプリントは重要な役割を果たした。2007年の会議中、EC委員は進展指標としてGDP、HDI(Human Development Index)とエコロジカルフットプリントの3つを取り上げた。
環境委員会発行の北米自由貿易協定(NAFTA)に関する報告書や
国連機関の各種報告書など、エコロジカルフットプリントは他にも国際的な討議の場で幾度となく取り上げられている。例えば、
UNDPの『Human Development Report』(人間開発報告書)や
エコノミストの『Pocket World in Figures』(ポケット版・世界の統計)はエコロジカルフットプリントを指標の1つとして挙げており、
生物多様性条約ではエコロジカルフットプリントを生物多様性の指標とすべきだとし、公式サイトでエコロジカルフッ
トプリントに関する資料を多数紹介している。
ウィリアム・リース教授およびマティス・ワケナゲル博士が開発したエコロジカルフットプリントの概念は、世界中で持続可能性に関する分析を行う人々から高い評価と信頼を得て躍進を続けている。もちろん時には反対の声もあるが、この手法が人々の考え方に一石を投じている証なのである。気候変動から漁業の衰退まであらゆるものを経験的に観測すれば、エコロジカルフットプリントが長年にわたって指摘してきた資源の限界と過剰消費が現実的な問題であることを日々確認できる。そして、エコロジカルフットプリントが提唱しているのは、複雑な問題に対する人々の理解を促し、問題を次から次へと転化していくのではなく根本的に解決するための行動を導く指針となる包括的なアプローチなのである。
当該手法が人口収容力に関する議論を再開させるきっかけとなってきたことにほとんど疑いの余地はない。グローバル・フットプリント・ネットワークは、エコロジカルフットプリントを福祉と持続可能性の主な尺度として採用するようこれまで以上に多くの国々に働きかけていくためのさらなる取り組みに向け、準備を整えている。
現在は経済に関するデータがGDP算出の基準となっているが、行く末はエコロジカルフットプリントの評価のデータが国家の会計制度の柱となっていくことだろう。
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