EU諸国を中心に「GDP(国内総生産)を超える指標づくり」の動きが高まっている。実際、2009年には、フランスにて、ノーベル賞経済学者ジョセフ・スティグリッツ氏を中心に報告書がまとめられ、経済社会の実態、社会の幸福度、そして持続可能性を測定するために新しい総合指標の開発の重要性が主張された。エコロジカル・フットプリント指標も、その流れに位置する。
エコロジカル・フットプリントを環境政策に生かす
グローバル・フットプリント・ネットワークは、エコロジカル・フットプリント分析を専門とする研究機関で、マーティス・ワケナゲル氏らによって2003年にアメリカに設立された。同研究所で、計算手法の世界標準化と、200カ国以上のエコロジカル・フットプリントのデータベースの整備が進められている。
2005年からは「10年以内に10カ国がエコロジカル・フットプリントを国の環境指標として実際の政策に活用する」という目標を掲げた「テン・イン・テン」キャンペーンが始まった。 2011年現在、エコロジカル・フットプリントの採用を正式に決定した国は、スイス・フィンランド・スコットランド・イギリスのウェールズ、アラブ首長国連邦・エクアドル・そして日本の7カ国にのぼる。
日本でのひろがり
エコロジカル・フットプリントが日本で初めて公式に紹介されたのは1996年版の『環境白書』である。2003年には、各都道府県のエコロジカル・フットプリントを国土交通省が算出し結果を発表。そして世界の中でもかなり早い段階で、エコロジカル・フットプリントを環境指標の1つとして導入することが2006年度に閣議決定された。2010年に入り、名古屋生物多様性会議 (COP10) の開催も影響してか、エコロジカル・フットプリントに対する関心が急速に高まっている。
エコロジカル・フットプリントの認知度を、身近な例としてインターネットの検索数で見てみると、2004年度にはヒット数がわずか330だったが、2011年3月現在では25,000以上と大幅に増加している。(ちなみに英語では2004年に89,000件、2011年に1,440,000件のヒットがある)
モノサシをかえる
沖縄県レベルでのエコロジカル・フットプリントの活用事例はまだない。しかし世界に誇れる自然環境を有する沖縄にとって、エコロジカル・フットプリントの概念を普及させ、世界に発信する意義は十分にある。1000万人の観光誘致政策が従来の拡大経済の枠を超えたものだとは、とても思えない。
GDPという指標で他府県と比較しその最後尾だと嘆くのではなく、モノサシをかえ、世界最高の持続可能な社会を目指すべきではないだろうか。その点では、環境保護の取り組みをエコロジカル・フットプリントをシンボルに積極的にアピールを行っているカナダ・カルガリー市や、エクアドルなどの活用事例が参考になる。沖縄を“効率よく沈む船”にしてはいけない。
達成しなければいけないこと
エコロジカル・フットプリントは、われわれの暮らしが生態学的に見て持続可能であるかを理解するためにとても効果的な指標である。しかし、同指標が社会を自動的に持続可能な発展へと導いてくれるわけでは、決してない。持続可能な社会を達成するためには、未来を基点に、いくつかの小規模な社会実験を繰り返しながら“答えを育てて”いかなければいけない。エコロジカル・フットプリントはその中で“羅針盤”として機能していくはずだ。世界は分岐点にいる。
ここで読者に聞いてみたいことがある。
“あなたは地球の未来について楽観的ですか、それとも悲観的ですか?”
エコロジカル・フットプリントの開発者であるマーティスは、この質問をこう切り返した。
「楽観的か悲観的か、それは観客がいうことではないか。試合前にどんなにナーバスなサッカー選手でもフィールドにたてば楽観的か悲観的か、そういうことは考えない。考える事はゴールのことだけ。持続可能な発展は、楽観的か悲観的かの問題ではなく、達成しなければいけないこと。」
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同記事は、6月11日に琉球新報(沖縄)に記載された記事「持続可能な地球〜エコロジカル・フットプリント」をブログ用に加筆・校正したものです。
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